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徒然日記 Vol 170

まん丸お月さん消えた夜  

   何年ぶりかに月食を見た。夕方に集まりがあり、車で帰る道すがら、早くも月は半分に・・。自宅に着いた時には、もう少しで皆既月食。孫たちを呼び、外に連れ出して一緒に月を眺めていた。すると、通りすがりの老人が「これで観なっせ」と双眼鏡を渡された。私も双眼鏡を持っていたが、借りて、マンションの上にぼんやりと赤黒く光る皆既月食の月を見た■月の上のほうはまだ薄く光り、肉眼で見ると細い眉のように見える。いつも見る月の輝きではなく、別の惑星かのようなその姿。老人は、「あの月の姿を中国では蚕眉(さんび)と言うんだ。昔、古典の授業で習った」と話された。その老人は近所に住む方で、県のOBであり、私の県庁時代の友人Tさんの義父だった■4年前、選挙に立候補した時に、その老人の家に挨拶に伺い、「Tさんには、県庁時代に大変お世話になりました」と話すと、「そりゃそうだろう。県におったら一緒に仕事をすることもあろうタイ」と、つっけんどんに言われた。それでもめげずに「市議選の立候補の挨拶に伺いました」と伝えたが、「俺は選挙は好かん」と言って玄関の扉を閉められた。それ以来、近所にいながら、散歩をする姿を見ても挨拶もすることもなく、敬遠気味だった。不思議なものだ、その方が、私のことを知ってか知らずか、月食の晩に、ちこらしく(親しげに)話しかけてくれたのだ■まん丸お月さんが消えたことで、心がまん丸くなったのだろうか?それとも、ただ単に、機嫌が良かっただけなのか?夕食も終わり、外に出て空を見ると、何にもなかったかのように頭の上で、いつものようにお月さんがお月さんらしくまん丸く、夜空に輝いていた。いつも、苦虫をかみつぶした顔で歩いていたあの人の心を、きっと、お月さんが癒してくれたのかもしれない。そう思った。ありがたや。ありがたや。  

※蚕眉(さんび)を調べたら、臥蚕眉(がさんび)という言葉に行きついた。太い眉のことを言うらしい。細い眉はなんというのだろうか?蚕眉(さんび)なのだろうか?誰か古典に詳しい人、教えてくださいませ。

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