徒然日記 Vol 82
眠れない夜
高校二年生だったろうか?数学の次に嫌いな物理の授業時間中に、山本周五郎の「さぶ」を隠れて読んでいた時のことだ。ふと、先生の声が途絶えたな、と思った瞬間、先生が前に立っていた。先生は怒るでもなく「なに読んでるの?」と、おもむろに本を取り上げて「いい本読んでるね。でも今は授業中だから、後で読みなさい」と言って、何事も無かったように、また、授業を始めた■40数年を過ぎたある日のこと、古本屋で「さぶ」に再会した。あの時の出来事を思い出し、そして購入した。議会での質問が終わった夜、達成感以上に、これからのやるべきことなどを考えていて、何かしら眠れなくなり、「さぶ」を読み始めた。物語は、「小雨が靄のようにけぶる夕方、両国橋を西から東へ、さぶが泣きながら渡っていた」という、出だしから始まる■表題のさぶの出番は少なく、さぶの親友の栄二の若き頃の不遇の人生の物語がほとんどを占める。読みながら、時折、高校時代のことを思い出し、本を伏せて目を閉じて・・。そしてまた読み始めることを幾度と無く繰り返した。栄二を支えるさぶやおすえやおのぶの言葉ひとつひとつが心に沁みて、胸が熱くなった。高校生のあの頃は、自分の進路も見出せないまま、やるべきこともしないで、訳もわからないまま、もがき苦しんでいた時期だった■そして、世の不条理に立ち向かって懸命に生きようとする栄二やさぶでもない自分は、これからどう生きるべきなのかと考えた。今、思い起こせば、「さぶ」は「生きることをあきらめてはいけない」「人はけっして一人で生きているのではない」ということを教え、勇気を与えてくれた本だったのだろう。そして40数年後に、また同じように、勇気づけられる自分がいた。もう眠らなくては、と思って手にした時計の針は、朝の4時を指していた。
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