北の空から/心癒されて Vol 7
さすがに丸二日間風呂に入らないでいると気持ちが悪い。日暮れ前に美瑛の町でガソリンを入れる時にスタンドの女性に「近くに安くて綺麗な温泉はない?」と聞くと、「白金温泉を10キロ程行った所に吹上という男女混浴の無料の温泉がありますよ」の返事。思わず鼻の下を長くして場所を聞く■温泉の入り口の広場に着くと、そこにはキャンピングカーやワゴン車が5台ほど駐車しており、広場の一角には4人の年配の男女がキャンプ用の椅子に座り車座になって話をしていた。温泉はその広場から山道を歩いて5分ほどの所にあった■山の崖っぷちの岩を穿って作った湯船が上下にふたつ。100度の源泉かけ流しの、まさしく天然温泉だ。たった一人で暮れていく峡谷の景色を見ながらの無料の温泉。なんと贅沢なひとときよ。その日は汗を流して近くの道の駅に帰るつもりだったが、心地よき温泉に魅せられてしまい、広場に車を停めてもう一泊して、翌早朝も極楽の湯に浸り吹上を後にした■後日談だが、この温泉は有名で、週末になると広場は車で埋め尽くされて、温泉は芋の子を洗うがごとき、とのこと。しかし、乗用車に貴重品を置いたまま温泉に行ったりすれば、窓ガラスを割られることもあるとか。もし行かれるのであれば、貴重品は車に置かずに持参して温泉に入るべし。
吹上の夜は更けて
吹上温泉が気に入って、その日の夜は広場に車を停めて野宿することにした。小雨が降る中、シートの下でウイスキーを片手に旅の計画を立てていた。すると、夕方に温泉の場所を教えてくれたおっさんが缶ビールを片手にやって来て、「おっ。飲兵衛がいたっ」と嬉しそうに隣の石の上に座った■その人は、北見市在住のMさん60代で、週何日かの夜勤の仕事の合間に、この広場にやって来て色々な人たちと会うのを楽しみにしているという。Mさんは中国が好きで昨年は、「2週間かけて中国の川下りのツアーに行ってきた。中国は広大な景色がいい」と言う。酔いが回ってきた頃、Mさんは携帯の画面を見せた。そこには綺麗な女性の姿が・・・。感想を聞かれたので、「頭が良くて、優しそうで、綺麗ですね」と答えた■Mさんは、その後の2時間ほどズーッとその女性の話をした。その女性は30代の在日の中国人で7年間付き合っていること、妻と別れて一緒になろうかと思っていることなどを・・・・。私は「奥さんと別れることは良くない。騙されてはいないだろうけれど、一緒になっても幸せにはなれない」などと諭した■23時頃、2歳ぐらいの子どもを抱いた夫婦が、「すみません温泉は何処ですか?ライトを貸していただけませんか?」とやって来た。Mさんと「こんな夜中に、ライトも持たず、子連れで温泉なんて非常識だ」と話していると、今度はもう一人おっさんがやって来た。大阪の人で、「いつもは、ホテルや民宿に泊まっているが、今夜は広場に車を停めて野宿をしている。眠れないので一緒に飲みたい」ということで、雨の中、三人で飲むことになった。私は、己のことは忘れて『世の中には変わった人がたくさんいるもんだ』と思いながら、ウイスキーの入ったカップに水を注いだ。
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